【目次】
プロフィール
株式会社リンクライブ
代表取締役社長 澤村 大輔
株式会社リンクライブ 代表取締役社長 澤村 大輔 氏
1986年生まれ。早稲田大学法学部卒。
2009年、野村総合研究所(NRI)に経営コンサルタントとして入社。
消費財・サービス産業などのBtoC事業領域を中心に、国内大手企業に対する事業戦略立案・新規事業策定などのプロジェクトを中心に従事。
2012年、同社を退職し、自らWebサービスを運営すると共に、Web/決済業界を中心とした戦略コンサルティングに従事。
2014年、株式会社リンクライブを設立。代表取締役に就任。
自分でやると、死ぬほど大変だったユーザーテスト
中村: すごい勢いで伸びているそうですが、まずは「ONI Tsukkomi」がどんなサービスなのか、教えていただけますか?
澤村氏: ありがとうございます。「ONI Tsukkomi」は、ユーザーをクラウド上で集めて、対象のWebサイトに対するリアルな声を集めるツールです。Webサイトの画面上に付箋を貼るイメージで、気になったところにコメントを書き込めるようになっているのが特徴です。
中村: いわゆるユーザーテストが手軽にできるサービスということですね。どうしてユーザーテストのサービスを作ろうと思われたのですか?
澤村氏: リクルート出身のエンジニアと一緒に、2014年の4月にリンクライブを設立したんですけど、当初はやることが何も決まってなくて。「申し訳ないんだけど、一緒に考えてくれない?」と言って、二人でコワーキングスペースで思いついたアイデアのひとつでした。
中村: 澤村さんはもともと野村総合研究所でコンサルタントをされていたんですよね? そこからなぜユーザーテストに着目されたのですか?
澤村氏: 野村総合研究所を退職後、1年ほどアパレル系のECサイトを運営していたんです。なかなか成果の上がらないサイトで、いろいろな改善をやっているのに、コンバージョンレートがまったく上がらない。そこでユーザーの声を拾うために、ターゲットになりそうな友人を呼んでユーザーテストをしてみたんです。
中村: 具体的にはどうやって?
澤村氏: PCでそのサイトを見せて、「5000円の予算で自由に購入しみて」とお願いしました。購買に至るまでの動きを見ながら、その場で気になったところをひたすらメモしていくんです。途中で質問すると、止めてしまうかなと思ったので、終わった後にまとめて質問をして。というのを、何人分も繰り返していきました。
中村: それは大変そうですね。
澤村氏: 死ぬほど大変でしたね。集約するのが、それはもう。結果は出たんですけどね。そのときに、もう少し簡単に声を拾うことができないかと思っていて、辿りついたのが「ONI Tsukkomi」というわけです。
当社のサービスでの実施例
中村: なるほど、そういう体験があったのですね。ECサイトのコンバージョンをあげるという文脈であれば、ユーザーテスト以外に解析ツールを使ったりA/Bテストを実施したりと、アプローチはいくつかあったと思うんですけど、ユーザーテストにフォーカスされた理由はなぜですか?
澤村氏: 当然のことながら最初はGoogleアナリティクスを使って定量データ分析に着手したんですけど、ランディングしてからの離脱率とか滞在時間とかの情報は出てきても、“だからどうしたらいいのか”というのが、まったく分からなかったんですよね。
A/Bテストにしても、目をつむってパンチを繰り出している感覚で、AとBのどちらがより“かすったか”というレベルの戦いになってしまって。“そうじゃなくて、そもそもどこにパンチを繰り出せばいいのかが知りたいんだよ!”っていう。
中村: 解析で得られた定量データも、A/Bテストも、手持ちの情報から仮説立案して施策を繰り返すことで効果が出てきます。
澤村氏: そうなんです。アクセス解析やA/Bテストなどの「定量情報」は、“あらかじめ仮説を立てたものに対し、何が正しかったのかという検証する”際には有効ですが、「ONI Tsukkomi」のようなユーザーテストから導き出される「定性情報」は、“仮説自体を作り出したいとき”に使うものだと思っています。
ユーザーテストは“正しい処方箋”を出してくれる
中村: ユーザーテストってなかなかハードルが高くて、やったことのない方も多いと思うのですが、具体的にどんな気づきが得られるのでしょうか?
澤村氏: Webのプロの方がサイトをチューニングするために何か施策を考えると、たいていエンジニアが工数をかけてシステムをいじるような、たとえば検索のアルゴリズムの対策をしたり、色の絞り込みができるようにしたりといった発想がどうしても多くなってしまいます。
しかしエンドユーザーの方は、あまりエンジニアが工数をかけずに対応可能なことを求めている場合も少なくなく、例えば「写真が小さい」とか「説明文が長くて分かりにくい」といった、「えっ?そこ?!」みたいな点が気になっているケースがあるんですよね。
Web事業者がプロ目線で想定している前提と、エンドユーザーが引っかかるポイントとは、乖離することがあるんです。病気にかかっているところと、処方した薬がズレているような感じでしょうか。
中村: ユーザーテストのサービスには、動画でユーザーの動きを録画するものもありますが、動画で録画する必要はないですか?
澤村氏: そうですねぇ…動画の場合、一人のユーザーさんの意見を分析するのに10~15分という長時間の録画映像を見る必要があり、一人のユーザーテストをするのに相当大きな負荷がかかります。また、ユーザーさんが動画でおっしゃる言葉は“ストレートな表現”も多いらしく、「動画越しに直接言われると心が折れそうになる…」とWeb業者やWeb担当者に聞くことがあります。ONI Tsukkomiを導入された方からは「テキストでの指摘なので、真摯な気持ちで受け入れやすい」ということで、喜ばれることは多いです。
中村: 確かに「ここまで言われるとつらい…」とか思っちゃいそうですよね。
澤村氏: そうなんです。どうしても特殊事例として捉えてしまいがちですが、特殊かどうかというのは判断できないんですね。その前提で、何本も録画した動画を見て、他の人と比較して、改善策を導き出すというのは、なかなか骨の折れることだと思います。
中村: その点、「ONI Tsukkomi」なら、管理画面上で一元的に視認できると。
澤村氏: そうです。テストユーザーの“ツッコミ”をグルーピングして、タスクに落とし込むこともできるので、テストをした後の集計も楽だし、施策にも反映させやすいので、動画テストから「ONI Tsukkomi」へ乗り換えていただく方もいらっしゃいますね。
中村: 「ONI Tsukkomi」では100万人の声を集められるプランもあるかと思いますが、100万人の声を集めるのって、相当時間がかかりませんか?
澤村氏: 実はロジックがありまして、Webサイトのユーザビリティ研究の第一人者であるヤコブ・ニールセン博士の調査によると、Webのユーザビリティ調査の中では、10人に聞けば98%の意見が拾えて、15人に聞くと100%になるそうなんです。
それ以上聞いても、同じようなことを別の角度から言っているだけになると。なので、1セグメントあたり10人に聞けば十分だと判断してモニタリングをしているので、1日〜2日あれば十分なんです。
「5人でテストすれば十分な結果を得られる」とヤコブ・ニールセン博士が研究結果を発表
中村: 1セグメントというと、F2層とかM3層とかいったことですか?
澤村氏: 1セグメントの定義は、どれくらいの粒度でマーケティングをしているかによります。たとえば性別や年代によって違う購買行動をすると捉えているのであれば、10代女性・10代男性・20代女性・20代男性といったそれぞれが1セグメントになりますし、さらに住んでいる地域や年収など、細かくデータを取ることもできます。
中村: それは勉強になります!
リリース前とは想定外の使われ方をしている「ONI Tsukkomi」
中村: それにしても「ONI Tsukkomi」って秀逸なネーミングだなと思うんですけど、澤村さんがお考えになったんですか?
澤村氏: 最初はそこまで深く考えてなかったんですけど、エンジニアから「このサービス名、なに?」って聞かれたときに、「鬼ツッコミ」って自然と出たんですよね。でもそれで行こうとは決めてなくて。
ローンチする前に、名前どうしようかと悩みながら知り合いに見せると、「おもしろい」と言ってくれる人と、「これはない」っていう人もいて。最終的には、ここはインパクトをとった方がいいだろうという判断で、決めました。ドメインを調べたら200円くらいだったし、何の競合もないので、2日くらいで検索結果で1位になったというのも大きかったです(笑)
澤村氏にONI Tsukkomiのリリース当初の話を聞く中村
中村: まだリリースから2ヶ月ほどしか経っていないと思いますが、こんなに反響があるというのは想定の範囲内だったのですか?
澤村氏: いえいえ、まったく。ほんとはもう少しこっそりやろうと思っていたんですよ。やっぱりローンチした直後のプロダクトって、どんなプロダクトでも作った人の独りよがりというか、それこそユーザーテストをして「ONI Tsukkomi」にも鬼ツッコミをいただきながら改善していこうと思っていたので、あまりにフィードバックが多すぎると、溢れかえってしまうなと思っていたので、比較的スモールスタートにしようと思っていました。
そもそも、まだ設立1年も経っていないベンチャーなので、そんなに多くのお問い合わせをいただけるなんて、思ってもみなかったです。その前提で設計していたので、想定していたよりも何十倍ものフィードバックをいただいて、今うれしい悲鳴をあげているところです(苦笑)
中村: 導入された150社さんの中には、ECサイト運営者じゃない方もいらっしゃるんですか?
澤村氏: はい。もとが私のECサイトを運営した経験からきているので、BtoCのECサイトの事業者さんが使ってくださるのだろうと思っていたのですが、ふたを開けてみるとBtoBの企業さんもすごく多くて。プレスリリース系のサービスとか、イントラ系のサービスとか、受発注システムのASPとか、決算系の会計ソフトのベンダーさんとか…ほんとに多業種に富んでいます。
中村: ユーザーテストというと、どうしてもBtoCのイメージが先行しますが、BtoBのニーズも多いんですね。
澤村氏: Webを介して人にアプローチするという意味では、BtoCでもBtoBでも関係ないんだと思います。画面の向こう側にいる人は、仕事ではBtoBの方かもしれませんが、仕事を離れるとBtoCの方でもあり、実は同じなんですよね。そこを勝手に切り分けているのは、あくまでも事業者側の都合なだけであって。
中村: なるほど。確かに、うちの社内でも、デバッグに「ONI Tsukkomi」が使えないかと興味を持っている部署があったんですよ。
澤村氏: まさにこれも当初は想定していなかったことなのですが、「ONI Tsukkomi」はお客様の声だけでなく、“社内の声を集める”ためにも使っていただいています。
たとえば、営業の人がお客様から直接「このページのここが分かりにくい」という話を聞いたり、「お客様に説明するときに、このページが使いにくいから、こんな風に改善してほしい」といった要望を持っていたりするときに、これまでだとWebの担当者にうまく伝える術がなかったんですよね。
同様に、カスタマーサポートの人がWebサイトを見ながら、お客様の電話対応をしている中で出てくる、たくさんのリアルな声や改善案を共有するための手頃なツールがなかった。
そうした社内の声を集約するときにも「ONI Tsukkomi」はとても有効で、気になったときにツッコミを残しておいてもらえると、マーケッターがアクセス解析の数値だけではわからなかった、人の心理的な部分を拾い上げることができるんです。
中村: アクセス解析やA/Bテストなどで、プロがプロの目でPDCAを回すだけじゃなくて、一般のユーザーやお客様の意見も聞いた上で、仮説を立てて検証していくことが大切なのかもしれませんね。
ユーザの声を取り入れた改善の重要性を説明する澤村氏
澤村氏: おっしゃる通りです。声を集めても、その中のどれを採用して、どんな形で施策に落とし込んで、反映させていくかというのは、マーケターやコンサルタントの方の知見が、必ず求められてくるところだと思います。
最後に
中村: 最後に、Web担当者へアドバイスをお願いします。
澤村氏: BtoBのサイトをやっていると、相手もプロだから大丈夫だと考えがちですが、先ほども申し上げた通り、ひとりの人間という意味ではCもBも関係ないと思います。Webサイトは開かれた場所でのビジネスですから、多くの方に満足いただく情報を提供していく必要があります。
実際の「ONI Tsukkomi」をご利用いただいたケースでいうと、「リスティング広告の販売サイトに『リスティングって何ですか』とツッコミが入ったことがあるくらい、我々の常識を覆すことがたくさんあります。プロたちが会議室で話をしているだけでは、それまで気づかなかったような示唆がありますので、ぜひ一度ユーザーテストをされてみるといいのではないでしょうか。
中村: 当たり前だと思っていた前提が崩されるということですね。自分たちの認識が一般ユーザーと乖離していないのか確認するためにも、いつもの定量的なデータ分析だけでなく、定性的なユーザーテストをプラスαでやってみるといいのかもしれませんね。
本日はありがとうございました。
ライター・野本氏と澤村氏とともに記念撮影
<取材・原稿>
野本 纏花(まどか)氏
フリーランスライター
大学卒業後、GMOインターネット株式会社にてマーケティング業務に従事。その後、数社を経て、2011年よりWriting Marketing Company 518Lab(コトバラボ)として独立。All About インターネットサービス ガイド。アスキーWebProfessional、MarkeZine、ライフハッカー[日本版]、サイボウズ式、roomie、HRナビなど、Webを中心に様々な媒体で執筆を重ねている。