マーケティングの課題解決を目的とした第一回『ベンダーマーケッター カンファレンス』開催レポート

2015年4月21日、デジタルマーケティング業界の課題を共有し解決することを目的にDigital Marketing Associationが発足。その活動の1つとして開催された『ベンダーマーケッター カンファレンス』が株式会社ガイアックスにて開催されました。
申し込みが殺到した同カンファレンスの様子を余すところなくレポートします。

※この記事は旧ブログ「INBOUND marketing blog」から移行したものです。

【目次】


【基調講演】コンセプトは「マーケティング シェア」

マーケティング シェア

登壇者

中村竜次郎株式会社ガイアックス
ビジネスマーケティング事業部
セールス&マーケティングチーム マネジャー
INBOUND marketing blog編集長 中村 竜次郎


まず冒頭の基調講演では当社のINBOUND marketing blog編集長の中村竜次郎より、現在のデジタルマーケティングを取り巻く課題を紹介。技術進化が加速する一方でユーザが置き去りにされている問題を指摘し、解決させるために会のコンセプトを「マーケティング シェア」と掲げました。
欧米発のシェアリングエコノミーという考えが日本でも広がり始め、モノやお金、サービスを共有していこうと考えと同様に「マーケティングの課題やノウハウ、技術を共有していくことで、よりユーザにとってもベンダーにとっても利益を生み出す世の中になる」と説明しました。

基調講演の際に使用したスライドが以下にアップしていますので、ぜひご覧ください。

基調講演の後は、第1部「これからのデジタルマーケティングツールはどうなるのか?」というテーマでツールを提供する企業によるトークセッション、第2部は登壇者を変え、「デジタルマーケティングベンダー自身のマーケティング戦略と、今後のマーケティングについて」をテーマにしたトークセッションが行われました。


【第1部】これからのデジタルマーケティングツールのあり方は?

第1部は、コンテンツマーケティングツール「Cloud CMO」を提供する株式会社イノーバの宗像 淳 氏、アクセス解析ツール「クリックテール」の株式会社ギャプライズの岩本 庸佑 氏、「Ptengine」の株式会社Ptmind小原 良太郎 氏が登壇。モデレータには、SEOの書籍「10年使えるSEOの基本」(技術評論社・2015年4月23日発売)を発売するヴォラーレ株式会社の土居 健太郎 氏が担当しました。


座談会参加メンバー

パネリスト

宗像 淳 氏株式会社イノーバ
代表取締役社長 宗像 淳 氏

 

岩本 庸佑 氏株式会社ギャプライズ
テクノロジー・ソリューション事業部エヴァンジェリスト
岩本 庸佑 氏

 

小原 良太郎 氏株式会社Ptmind
co-founder
事業戦略部部長 小原 良太郎 氏

モデレータ

土居 健太郎 氏ヴォラーレ株式会社
取締役
土居 健太郎 氏


ポジショニングと値付

土居氏:早速ですが、各社の値付け、ポジショニング、競合との住み分けといった生々しい話から聞いて見たいと思います。

岩本氏:クリックテールは、日本で展開し始めて3年になりますが、当初はヒートマップツールの市場が顕在化していないこともあり、月額数万円という価格でスタートしました。今は更なる機能の充実化、コンサルティングも含めて展開しているため、高価格帯で勝負しています。

小原氏:Ptengineは参入が1年半前と後発のツールです。半年前からWeb決済に対応し、サポートはメールのみの月額1.5万円プランを最安値として出しています。営業マンがタッチせずにWebだけで販売するスタイルは当初厳しいかと思いましたが、順調に伸びています。

土居氏:Googleアナリティクス(以下、GA)が競合になると思いますが、Ptengineの付加価値は?

土居氏

小原氏:直感的に操作できる使いやすいさですね。GAのほうが機能は豊富ですが全部使いこなせるユーザはわずかですから、基本機能を使いやすくして差別化しています。

土居氏:Web決済はメールサポートのみということですが、それは使いやすさを捨てているということはないのですか? あと、知識がつけばGAに乗り換えということにはなりませんか?

小原氏:そもそもサポートがなくても使いこなせるようなUI・UXであるべきなのでサポートがある時点で我々のビジョンを達成できていないといえます。乗り換えについては、GAにはないヒートマップを毎日チェックしている方が多いので、離れがたくなるようです。

土居氏:イノーバさんのツールは、コンテンツマーケティング支援、マーケティングオートメーションですが、どちらも概念的できちんと理解している人が少ない市場だと思いますが、啓蒙などはどうされていますか?

宗像氏:おっしゃるとおり、まだ理解されていないフェーズですので、営業が売るというスタイルで月額8万円、年間100万というプランで販売しています。これまでは、広告で流入させていたところを、オウンドメディアを立ち上げてサイト経由での流入を増やすことを目指しており、ツールとしてSEOキーワードの評価、メール配信、アクセス解析などの機能が用意されています。

宗像 淳 氏

土居氏:世界的に有名なものはHubspotだと思いますが、競合になりますか?

宗像氏:インバウンドマーケティングはそもそもHubspotが提唱した概念ですし、興味をもったきっかけになっています。ただ、Hubspotをそのまま日本に持ってくるのは、サポートなどで厳しい面がありますので、大変ではありますが完全自社開発をし、昨年10月にリリースしました。

土居氏:ちなみに開発コストはどれくらい・・・

宗像氏:1億はいっています。うちは、コンテンツの制作部隊が稼いで開発が燃やすという流れです(笑)


インフルエンサー・マーケティング、イベント出展、共催セミナー…効果が高い施策は!?

土居氏:各社さん、プロモーション、セールスはどうされていますか?

小原氏:フリーミアムモデルですので、フリーのユーザーに拡散してもらうことを当初期待していました。蓋を開けてみると記事等はあがるものの、それほど拡散されない状態でした。アクセス解析はすでに基本的なツールなので、メディア受けが悪くPRもしづらい状態にありました。
そこで年間200万円くらいの有料プランを有名ブロガーを中心に無料で提供するという、インフルエンサー・マーケティングをしかけて、解析方法などをブログに書いていただき拡散してもらいました。それを見た他のブロガーも無料版を使って記事を書いてみるといった流れが生まれ、これらの記事からの流入のコンバージョン率が40%くらいと大きく成長に寄与しました。

Web決済していただくためには、Web上に製品に関するいろいろな情報がある必要がありますが、ブロガーが記事を書いてくれたお陰で、Web決済がされやすくなったという面もあります。

土居氏:イベントにたくさん出展されている宗像さんはどうですか?

宗像氏:昨年の秋にある展示会に出展しました。広告業界の人が多いので私たちのターゲットには訴求できないことは織り込み済みでしたが、業界での認知があがり、代理店の問い合わせが増えました。コンテンツマーケティングとイノーバを紐付けたい、コンテンツマーケティングで1番になりたいという目標があるので、露出したのは良かったと思います。


顕在化していない市場の攻め方

土居氏:「コンテンツマーケティングを売る」というのは難易度が高いのでは?

宗像氏:確かに見込み顧客のリードは、クロージングに時間がかかります。最近は、昨年出版した「商品を売るな」(日経BP)という書籍を読んでWebサイトに来て問い合わせする方が多く、社名検索での来訪が30%になっています。

岩本氏:クリックテールは、マーケットが顕在化していないときは、毎週2回くらい自社セミナーを開催しました。問い合わせよりもセミナーのほうがハードルは低いと思ったからです。またリードを持っていそうな企業と共催セミナーを月2~3本開催しリードを増やしていき、さらに今度はそれを売りにして共催を持ちかけていきました。

マーケットがないときは良さを伝えないとピンと来ない感じでしたが、他の競合が増えマーケットが顕在化したところで月に約170件問い合わせが来るようになっています。今は開発元の意向もあってハイエンド化し年間1000~2000万円になっており、見込顧客に提案に行くというスタイルです。

土居氏:では今後の展開と課題を。

宗像氏:お客さんにはまだツールの会社として認知されていないので、きちんとツールを売っているということを伝え、営業で地道に地上戦をしていきたいです。

岩本氏:お客さまの課題を、クリックテールなのか?シミラーウェブなのか?または、LP構築であるのか?それ以外であるのか?などをシッカリとヒアリングをさせていただき、弊社にて解決できるかどうかを見定めて営業をしています。コンサルを主軸にして、さらにクリックテールがあることで精度の高い施策・改善ができると伝えています。

小原氏:使いやすさが売りですが、ターゲットになるアクセス解析を使いこなせない人にどうやって知ってもらうかが課題です。年内いろいろな施策をしかけています。


【第2部】BtoB企業のマーケティング施策

第2部は、名刺管理のSansan株式会社の日比谷 尚武 氏、第1部でモデレータを務めたヴォラーレ株式会社の土居 健太郎 氏、インバウンドマーケティング支援の株式会社ガイアックスの中村 竜次郎が登壇、株式会社イノーバの亀山 將 氏がモデレータを担当しました。

パネリスト

日比谷 尚武 氏Sansan株式会社
コネクタ
日比谷 尚武 氏

 

土居 健太郎 氏ヴォラーレ株式会社
取締役
土居 健太郎 氏

 

中村 竜次郎株式会社ガイアックス
ビジネスマーケティング事業部
セールス&マーケティングチーム マネジャー
INBOUND marketing blog 編集長 中村 竜次郎

モデレータ

亀山 將 氏株式会社イノーバ
マーケティング部リーダーコンテンツマーケティング専門メディア
「The Content Marketing」編集長 亀山 將 氏


限られたBtoBのマーケティング施策の中で何を選ぶか?

亀山氏:BtoB企業のマーケティングの取り組みや体制についてお話を伺いたいと思います。

日比谷氏:法人向け名刺管理サービスのSansanは基本的にセールスフォースの仕組みを参考にして、リードを集めるチーム、インサイドセールスのチーム、最後のクロージングの営業チームの3つに分かれて動いています。広報はリードには直接寄与しないが事業に貢献できる露出を目的にしたメディア対応をしています。

土居氏:うちは営業部がなく全員がコンサルをやっていて、リードがきたら行けそうな人が営業に行くという完全なインバウンドでやっています。

中村:私は営業とマーケティングを見る役回りですが、営業に関しては必要なときの同行、管理、相談を受けることが中心で、主な業務はリードを獲得して案件化につなげるマーケティングです。インサイドセールスはアウトソースして、その管理もしています。

亀山氏:ガイアックスさんのブログにあったBtoBマーケティングの施策一覧が大変参考になりますが、BtoBの施策はある程度決まっているように感じます。その中で組み合わせ、最適化、KPIなどはどうしていますか?

INBOUND marketing blogの過去の記事より

中村:リスティングは費用対効果が悪く、展示会は集めたリードをフォローしきれないということで、ブログにいきつきました。ブログのPVが増えただけではリード獲得ができないので、資料ダウンロードを用意してリードを獲得し、そのリードをメルマガで醸成するのが効果的です。

CRMとしてシャノンさんのツールを導入していて、メルマガ経由で何度も訪問されている方などには、直接電話をして商談につなげることがあります。ブログ、資料ダウンロードからのリード獲得、インサイドセールスで商談につなげるというパターンが一つできています。

亀山氏:Sansanさんは一番効果的な施策は?

日比谷氏:名刺のデータベースを活用するのが鉄板で、いかにリードを集めフィルタリングして営業に渡すか、クロージングするかという基本的な形は変わらないですね。弊社の商品は説明商材なので、クロージングするには営業が必須です。始めは試行錯誤でしたが、最近はどれくらいのリードがあればどれくらいクロージングできるかというのが見えてきました。リスティング、展示会、CMなどのCTAがわかってきたので、最低限の売上にするために必要な予算もわかってきました。

展示会はリードはとれますが受注に結びつきにくいので、一時期封印していたこともあります。


CM、コンテンツマーケティング、ブランディングに関する施策はどう評価するのか?

亀山氏:CMの効果はどうですか。

日比谷氏:厳密にトラッキングはできていませんが、投資をしたおおよその効果としては割が合うと考えています。2年前から続けている、ということは費用対効果があったんだ、と思っていただいてよいかな、と。

亀山氏:土居さんはいかがですか?

土居氏:先ほどの施策一覧はひと通りやっていて、費用対効果があわないものは削りました。月に数10万円のコンサル料を支払うSEO担当者は少ないので、マスのアプローチ、人海戦術は意味がない。当社のオウンドメディア・SEO HACKSで情報を出して来てもらうのを待つ、メディアや他社のブログに記事を掲載するなど、いろいろなところでコンテンツを用意して見つけてもらうというのが基本です。

コンテンツはKPIを設定しにくいのですが、まずは自社に興味を持ってもらうことが目的なので、仮にブログ記事の直帰率が95%でも、知ってもらって帰るのならいいと思っており、細かい数字はあまり見ていません。

コンテンツマーケティングは積み上げの施策ですから時間がかかりますし、途中でやめたら意味がありません。マーケティングのポートフォリオを作ってコンテンツマーケティングがうまくいくまでは投資する必要がありますね。投資したものは、途中で放棄しない限りは必ず資産になります。

亀山氏:CPL(Cost Per Lead: 見込み客1件あたりの獲得コスト)をKPIにすると手詰まりになりますよね。啓蒙やブランディングのKPIはどうしていますか?

日比谷氏:数年前くらいから徳島のサテライトオフィスが話題になりましたが、事業とは直接関連のない施策なので当初は積極的にPRしていませんでした。だけど露出効果でじわじわと問い合わせが増え、Sansanの知名度向上に寄与することがわかってきたので、マーケティングの余ったリソース、というか日比谷の隙間時間をメディア露出に当てるようにしました。それで成果が出たので、専門の広報の部署ができました。

インターネット上に名刺情報を載せるのは不安という声がある中で日経新聞やWBS(ワールドビジネスサテライト)に露出して信頼感を得る、箔をつけるというのは意識していました。
マーケティングメッセージとしては、創業当初は「名刺管理」というと名刺制作会社と勘違いされることもあったので、名刺といわないで、和製CRM、和製セールスフォースといっていたこともありました。そのうち、クラウドや名刺管理が浸透してきたので、いまは「元祖名刺管理」と宣言しています。名刺管理は、昔から類似製品が多いですが、シェアNo.1のサービスとして差別化する、営業がトークを磨くというようにしています。

亀山氏:今後の施策は?

中村:ナーチャリングの部分を強化したく、1社だけで完結できないので企業と企業をつなぐこともやっていきたいです。

日比谷氏:名刺データを活用しやすくなるような他のベンダーとのアライアンスを強化したいです。もう1つ、Sansanのとスマホアプリをフリーミアムで出しています。こちらは企業内個人をターゲットにしていて、まずは個人から使ってもらってそこから法人契約につなげていきたいです。

土居氏:良くも悪くもヴォラーレ=SEOという印象が強いです。SEO以外のコンサルティングの仕事も多いですし、今はメディア事業にものすごく力を入れています。技術にも力を入れていきたい。今の僕たちをきちんと理解してもらえるように、広報やマーケティングを頑張っていきたいです。


2回、3回と続くカンファレンス、そして新たな施策に

1部、2部のパネルディスカッション後は懇親会を開催。「今までにないカンファレンスだった」「次回も参加したい」「自分も登壇したい」など、好意的な意見が多く、次回開催に向けた準備やカンファレンス以外の施策を、Digital Marketing Associationでは用意していきます。


<執筆>

深谷歩株式会社 深谷歩事務所
代表取締役 深谷歩

ソーシャルメディアやブロクを活用したコンテンツマーケティング支援を行う。Webメディア、雑誌の執筆に加え、講演活動、動画制作も行う。またフェレット用品を扱うオンラインショップ「Ferretoys」も運営。

著書
『小さなお店のLINE@集客・販促ガイド』(翔泳社)
『SNS活用→集客のオキテ』(ソシム)
『小さな会社のFacebookページ制作・運用ガイド』(翔泳社)
『小さな会社のFacebookページ集客・販促ガイド』(翔泳社)